| あわただしい準備の間、俺はいつもそうするようにひとりの男の世話をしていた。
「みーちゃん、今日の衣装は桃色がいいなあ〜。」
男の名前は眞知。
「その呼び方やめてくれって何度言ったら分かるんですか!」 「桃色。」 「流さないで下さい!分かりましたよ、探してきます。」
ちなみに俺の名前は澪。
ここは「花鐘堂」。 街から少し外れた通りにある劇場である。
ここの役者はみな男でありながらも、舞台の上では男であってはならず、しかし女であってもならない。 この世には存在しない、完全な「中性」を演じるのである。
優美な中にときには鋭さを持ち合わせながらここの役者は舞う。
その独特の演出に客はやってくるのだ。
ここに俺がいるのは、眞知さんに拾われたから。 彼は恩人なのだ。 眞知さんは数年ほど先輩にあたり、彼も俺と同じような生い立ちでここにやってきたらしい。 だから俺のこともほっておけなかったんだと。
澪と名づけたのも眞知さんだから、これは本名じゃない。
他の奴らもそうだ。
ここではみんな芸名で呼び合っている。
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